世界進出する内科医

公私ともに世界に出ていきたい内科医のブログ。飛行機のレポートから渡航医学まで海外進出に関連のある話題をつづります。

渡航医学まとめ MERS


この情報は古くなってきていますので、最新の情報の入手をお願い致します。
厚生労働省のMERSサイト
WHOのMERSサイト
2015.06.16追記


韓国でMERSという新しい感染症アウトブレイクの報告があり、中国に飛び火しています。渡航医学まとめとして、WHO(世界保健機関)のまとめをもとに要約します。


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MERSは2012年にサウジアラビアで初めて同定された新しいコロナウイルス感染症で、2003年頃に香港やカナダでアウトブレイクしたSARSの類縁疾患です。MERSは呼吸器疾患を引き起こします。症状は風邪のような軽症のものもありますし、人工呼吸器管理を要する重症まではばひろい病態を起こします。 典型的なMERSの症状は発熱、咳、呼吸困難で、レントゲンでは肺炎がよくみられます。ただし必ず肺炎症状を引き起こすとは限らず、下痢などの消化器症状が前面に立つこともあります。 報告されている死亡率は約36%。ただし、病院に来ようとも思わないくらいの軽症患者もいるので、死者に対する分母は大きくなり、本当の死亡率はもっと低いと思われます。 MERSはほとんどヒト→ヒト感染でしたが、ラクダからヒトに感染した事例もあります。現時点でラクダのウイルス伝染における役割は不明です。 ウイルスはサージカルマスク無しで濃密なケアをするなどしない限りはそう簡単にヒトーヒト感染は起しません。

MERS感染の臨床症状は不顕性感染や風邪のような軽症のものもあひますが、重篤な呼吸器症状によって死亡する症例もあり多岐にわたります。典型的なMERSの臨床症状は発熱、咳、呼吸困難です。肺炎はよくみられる症状ですが、必発ではありません。 胃腸症状は下痢が多いとされています。重症の場合は人工呼吸器管理やICU管理を要します。高齢者、免疫不全者、癌、慢性呼吸器疾患、糖尿病の存在は重症化しやすいとされます。 

MERSは本来動物由来ウイルスで動物からヒトに感染することがあります。かつてはコウモリ由来で、現在はラクダが自然宿主と思われます。

動物からの伝播:動物からヒトへの伝播ルートは、ラクダがメインであろうと考えられます。エジプト、オマーンカタールサウジアラビアでのラクダから分離されたMERSウイルスの種はヒトと同一であったと報告されています。

ヒトーヒトの伝播:感染者に対して防護(サージカルマスク程度の飛沫予防策)をせずに濃厚なコンタクトを取った場合、ウイルスはヒトーヒト感染を起こす可能性があります。医療機関で院内感染としてのアウトブレイクした事例があり、飛沫予防策や咳エチケットが破綻している場合にはリスクが高いので、咳がある場合には患者にマスク着用を医療者は指示すべきであると考えられます。今のところ、連続的に感染が連鎖したとの報告は認められません。

ウイルスはサウジアラビアをはじめとしてアラビア半島中に認められています。いくつかのケースは中東の外に伝播したと報告されています。これらは、中東で感染した後に航空機で遠方に移動した症例であり、二次感染は限定された範囲でのみ認められています(これまでは……です)。

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ワクチンは開発されていません。治療は対症療法であり、 一般的な予防策はラクダやその他の動物がいる地域、マーケットなどを訪問した人は動物に触れる前後に手洗いをし、病気の動物に接近しないようにすることです。動物由来の製品を消費する際は、適切に調理され、消毒されたものにすべきでしょう。

ウイルスの伝播の多くは、患者から医療スタッフへ、あるいは患者間で院内感染として発生していました。しかし、特徴的な症状は乏しく診断を臨床的に行うのは可能ではないので、入院から診断まで日数を要することもあります。ヨーロッパに輸入された症例でも診断まで一週間以上要した症例もあります。

 MERSを疑ったか、確定した患者に対してケアを行う医療機関では伝播リスクを減らすべく感染対策を行う必要があります。医療提供者は接触、飛沫感染対策に関して教育を受け、訓練しなければならないし、資材も必要です。

なお、現時点ではWHOは旅行の制限は行っていません


 ◆韓国における中東呼吸器症候群(MERS)確定症例について (2015年5月29日現在) 5月20日、韓国でMERSの陽性患者が確認されました。現在の確定患者は7名ですが、重症化患者は今のとこるいません。韓国政府は、初の輸入症例を受けて、家族、医療スタッフ等濃厚接触者に対する外出自粛及び疫学調査を実施しています。MERSは中東とその周辺諸国を中心に、患者が確認されているウイルス性の感染症で、潜伏期間は2~14日程度とされ、主な症状は、発熱、咳、呼吸困難です。下痢などの消化器症状をしかないこともあります。持続的なヒト-ヒト感染は確認されていませんが、患者の家族や患者に関与した二次感染例は多数報告されています。


結論としては、咳エチケットの励行が重要で、呼吸器症状や発熱がある旅行者のスクリーニング方法を強化する必要があります。呼吸器症状のある搭乗客に対して、航空会社は検疫担当部署と共同で、搭乗前に乗り込まないよう阻止することも必要でしょう。搭乗してしまったあとで発覚したら、とりあえずマスクをする指示を出すのが有効でしょう。また入国する際に渡航国や症状のスクリーニングを行い、最も大切なのは、検疫所が責任をもって受診する医療機関に繋ぐことでしょう。これまでの経験では検疫所は発熱患者に「病院に行ってください」だけ伝えて後は放置にはなってしまっていることが多いです。

また、韓国からの飛行機は日本中の地方空港に就航しています。エボラウイルス病が流行した西アフリカからは乗り継ぎのパターンも少なく、東京や福岡などの大都市で疑い例が続きましたが、今回は地方からくるかも知れません。地方空港の検疫体制、地域医療機関との連携は重要です。

往来の多い隣国での出来事であり、しかも検疫の指示を破って中国に飛び火させたことを考えると、日本は検疫体制の強化が必要になるでしょう。それから、ヒトーヒト感染のみならず、動物からの感染も警戒しなければなりません。砂漠でラクダに乗るというレクリエーションも流行っていますが、安全かどうかは以前より怪しくなっていると認識されるでしょう。

今すぐ大騒ぎはしなくて良いが、拡大具合を連日確認する必要があるあるという程度の事象と言えそうです。