世界進出する内科医

公私ともに世界に出ていきたい内科医のブログ。飛行機のレポートから渡航医学まで海外進出に関連のある話題をつづります。

渡航医学まとめ MERS 2回目

この情報は古くなってきていますので、最新の情報の入手をお願い致します。
厚生労働省のMERSサイト
WHOのMERSサイト
2015.06.16追記

MERSの話題を取り上げ始めてから、本ブログのアクセスが増え、関心の高さを痛感しました。私も疑い例があれば対応する立場のため、追加で調べたこともありますので、ここでまとめておきます。

①MERSの韓国における現状まとめ
あまり詳しい状況がわかりませんが、とりあえず、厚生労働省からの情報では以下の通り。

INDEX CASEは、4月下旬から、5/11まで中東に仕事で滞在。無症状で入国。
A病院に5/12-15通院、B病院に15-17入院、C病院に5/18-20入院、D病院に5/21-入院。

5/19に妻感染し発症。
その後、B病院入院患者でINDEX CASEと接触のあった9人が感染。院内感染したB病院の9人の家族が5人感染。
また、A病院のスタッフ、C病院のスタッフが感染しています。

その後も患者数は拡大しており、INDEX CASEと接触のない患者、つまり3次感染も出ている模様です。

②感染力は強いのか?
MERS-coVはそんなに感染力が強いとは認識されていませんでした。しかし、今回の韓国のケースではINDEX CASEは14人の人に病気を感染させており、一人が他の人に伝染させる数として14というのは大きな値です。つまり、これまで考えられてきたり感染力が強いのかもしれません。ただし、ウイルスが変異したなど性急な結論を出してはいけません。人口密度の高い東アジアで、しかも総室の病棟です。また韓国は日本に比べて患者一人あたりの看護師は少なく、感染対策の知識がない家族が身の回りの世話をすることが多いのです。患者のおむつを交換したりするのも家族だったりします。感染対策を知らない家族が患者の湿性生体物質に濃厚暴露するという状況は、感染対策の破綻を容易に来まします。日本では現在家族がこのような事をすることは稀です。基本的にプロの看護師さんがやっています。これらの要因で再生産率、すなわち一人の患者が新たに感染させる人の数はより低くなるでしょう。

③-1我々はどうすべきなのか? 一般人として……
検疫所からは次のようなポスターが出ています。
f:id:shirokumaotoko:20150605132502j:image
MERSが疑われる患者と……云々と書いておりますが、それがわかれば苦労はしないわけです。結局は流行している都市の近辺で病院や病人と接触があったらグレーと判定するということになるようにも思います。これらの条件に該当して、すでに発熱している場合は、検疫所が診察(!?)することになっているようです。つまり、14日以内に韓国滞在があり、日本入国時に発熱していたらMERS疑いとして入院となるようです。
また、仮に入国時に発熱がなくても14日間は検疫所からの健康監視が入り、発熱したら検疫所に連絡、その後指定された病院に受診という形になるようです。

しかし、ご存知のとおり、検疫ブースでパスポートの確認はありません。きちんと滞在歴を検疫官に申告することが大事でしょう。このような状況なので、水際では食い止めきれないかもしれません。また上のようなポスターは見落とされがちです。

咳が出ているときはマスクを着用し、マスクがなくてもハンカチやちり紙で口を覆い、その後手を消毒しましょう。CDCが作った咳エチケットポスターです。このブログらしく英語版をそのまま貼り付けます。

f:id:shirokumaotoko:20150605140902j:image

次のロイターの記事を読むと、INDEX CASE周囲で咳エチケットが破綻していたことがよくわかります。

③-2我々はどうすべきなのでしょう? 医療関係者として
MERS流行地域から帰国後に体調不良でふらりと病院に受診することはあり得ます。現にエボラウイルス病疑い患者が開業医を受診したということも記憶に新しいところです。海外渡航歴があれば正直に話すことが大切です。医療関係者はそれを聞き出さなければいけません。また、患者さんに咳エチケットをしてもらうことも重要です。人に咳エチケットを指導できるよう、必要物品をすぐ入手できるようにすべきです。
最悪のケースとしては、健康観察中の人が急に呼吸状態が悪化し家から近隣病院に意識朦朧で搬送される場合です。本人から渡航歴は聞けませんね。今の時期、謎の重症呼吸不全はMERSの可能性があると思ってサージカルマスク、手袋、ゴーグルで対応すべきでしょう。挿管するならN95も適切に着用する必要があります。

④韓国旅行は中止すべきか?
韓国全土で流行ってはいませんが、西海岸の広い範囲で患者が出ていますので、不要不急なら延期してもいいように個人的には思います。
現在韓国のどこで患者が出ているか書かれています。韓国全土で出ているわけで入りません。しかし韓国旅行するなら西海岸に行くことが多いはずなので、旅行の閾値は上げるべきでしょう。
このブログの読者ならマイル修行の方もいるかもしれませんし、安いビジネスクラスを求めて韓国トランジットという方もいそうです。しかし、今でなくても良いかもしれません。

⑤本当に死亡率は40%あるのか?
MERSには、感染しても症状が出ない不顕性感染があります。頻度はあまり明らかではありませんが、中東におけるMERS発症者のほとんどが感染経路不明ですので、不顕性感染者から他社への感染が拡大していることも考えられます。一般に不顕性感染が多い疾患の死亡率の計算は困難です。なぜなら、感染した人が何人かわからないからです。
また、MERSには軽い風邪程度で終わる症例もあることがわかっており、こういう人たちは病院にすら行かないでしょう。つまり、入院を要するくらいの重症に運悪く陥った人たちの中では40%死亡するが、軽症や無症状者がもっとたくさんいるので、死亡率は40%よりも大幅に低いと考えるべきでしょう。