世界進出する内科医

公私ともに世界に出ていきたい内科医のブログ。飛行機のレポートから渡航医学まで海外進出に関連のある話題をつづります。

渡航医学 ラクダに触るとMERSの危険がある?

韓国でMERSのアウトブレイクが終わってから国内での「MERS熱」は落ち着いてきましたが、相変わらずMERSを発症するかもしれないという理由で健康観察を受ける人がいます。

どういう人が該当するかというと、ラクダに乗ったり、ラクダ肉を食べたりした人たちです。検疫所ではこのような行為はMERSに感染する可能性があるので控えるように指導しています。

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ラクダが可愛すぎる気もしますが、このポスターには厄介なことが書いてあります。

①ラクダを触ったり食べたりするとMERSになりかねない

②ラクダと接触した場合は14日間検疫所から毎日健康状態を聴取される

ということです。

 

韓国が国民に生のラクダ肉を食べないように指導したり、WHOが韓国にラクダの尿を飲まないように指導したりと、笑いごとでないのに笑ってしまいような事態になっています。しかしそもそもMERSはラクダに触れただけで感染するのでしょうか?

 

まず、ラクダと人で全く同じ遺伝子配列を持ったMERSウイルスが検出されたという報告があり、これがラクダ→人感染説の有力な証拠になっています。どういう症例かというと以下の様なものです。

ヒトコブラクダを9匹飼っていた44歳の健康な男性が、体調の悪いラクダの鼻水をかけられた後、呼吸器症状を呈し、15日後にMERSで死亡しました。経過中に男性の鼻からとったMERSウイルスを培養したものと、ヒトコブラクダの鼻からとって培養したウイルスは完全に遺伝子配列が一致していたということでした。さらに、この男性が飼っていたヒトコブラクダのうち、4匹はすでにMERSに対する抗体を十分に持っていた一方、調子が悪かったラクダは当初抗体が低かったが後に上昇したということが分かっています。調子が悪くなって抗体価が上がるという現象は、その病気にかかったということを証明することによく使われる手法で、つまり体調のわるかったラクダは、男性に鼻水をかけた時、初めてのMERSウイルス感染のさなかにあったということになります。

その結果、ラクダはMERSウイルスを鼻に保菌している可能性があり、濃密な感染ラクダとの接触は人へのMERS感染の原因になりうるということを示しています。

 

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ところで、旅行会社はこの事実をどのように考えているのでしょうか?

例えば↓のツアーをサンプルとして掲載しました。「ラクダに乗れるのが売り」になっちゃってます。このツアーに参加した結果14日間の検疫所による健康監視がつくかもしれませんね。旅行会社にクレームはいかないのでしょうか??

 

一方でこちら↓の会社はラクダ乗りは推奨いたしませんとはっきり書いてあります。

www.hotholiday.jp

 

このように旅行会社によって温度差があります。

旅行先の危険情報を商品購入者に事前に通知する義務は旅行会社にはないのでしょうか??

 

実はあります。その根拠は旅行業法第十条に旅行会社が行わなければならない項目として「取引条件の説明」というのがあります。この「取引条件」の中に「 旅行の目的地を勘案して、旅行者が取得することが望ましい安全及び衛生に関する情報がある場合にあっては、その旨及び当該情報 」というのが入っております。というわけで、ラクダへの接触という行為は、国が感染症の危険があるのでやめた方がよいといっているという情報は旅行会社から顧客に説明すべきであろうと考えられるというわけです。

上で紹介した旅行会社の一つ目も本社は東京にありますので、日本の旅行業法の適応を受けるはず。やはり説明が無いのは問題でしょう。

 

ただし、「ラクダの鼻水をかぶるようなことはないから濃厚接触でない」という屁理屈をこねられるとどうしようもないのでしょうが・・。