世界進出する内科医

公私ともに世界に出ていきたい内科医のブログ。飛行機のレポートから渡航医学まで海外進出に関連のある話題をつづります。

化血研騒動対応 B型肝炎ワクチンの代替ワクチン

化血研が1月5日から5月6日までの110日間に及ぶ営業停止処分を受けました。渡航医学屋としては、ワクチンが安定供給できるのか、受診者から納得が得られるのかといった問題が出てきて困っております。というわけで、ワクチンに関する今回の騒動のまとめと、代替品について勉強していきたいと思います。

f:id:shirokumaotoko:20160126180732j:plain

 

まず、ワクチンでも製造工程の遵守違反があったのかという点に関して、営業停止前日に面会できた化血研の方から回答を得ました。これについては「No」です。

製造現場が持っている手順書には「白糖」と書いてあるが原本には「ショ糖」と書いてあるといった転記ミス程度の問題はあるものの、製造工程は遵守されていたということです。今後どのような事実が明らかになるかわかりませんが、これ以上は追及のしようが無いので信じることにしました。

 

次に、化血研が独占しているワクチンの販売は継続されるのかについて確認しました。これについては「Yes」だそうです。

営業停止になりましたが、独占しているワクチンについては販売の継続が許可され、逆に販売停止になっている商品が僅かしかないという状況のようです。細かくは以下のリンク先をご覧ください。

www.kaketsuken.or.jp

f:id:shirokumaotoko:20160126162703j:plain

この中で混乱が予想されるのはB型肝炎ワクチンです。これから新年度を迎えるにあたり学校職員や医療関係者のB型肝炎ワクチン接種者が増えることが予想されます。とりあえず国内に流通しているワクチンとしては「化血研のビームゲン」と「MSDのヘプタバックス」があります。どう違うか、どこが同じかまとめてみたいと思います。

 

①どっちでもいいのか??

まずビームゲンとヘプタバックスではワクチンを作るもとになっているウイルスの遺伝子型が違います。ビームゲンはC型で、ヘプタバックスはA型です。では同じ型のウイルスにしか効果がないのかというと、そんなことはありません。確かに遺伝子型によって生成されるHBs抗原はadw, adr, ayw, aydなどの種類(サブタイプ)が生まれます。しかしこのHBs抗原によって誘導されるHBs抗体(←ワクチンで誘導したい抗体)は、抗原のサブタイプによって微妙に違うものの相互に中和することは可能なようです。したがってビームゲンを打ってもA型のB型肝炎を防げるし、ヘプタバックスを打ってもC型の感染を防げます。

 

②途中で切り替えるのはどうか?

B型肝炎ワクチンは3回セットで接種するのが基本です。一般的には初回接種し、4週間後に2回目、約半年後に3回目に接種することになります。原則として3回接種するワクチンは同じ商品を使うのが良いと思われます。製薬会社も製品の有効性を検討する際には3回とも同じワクチンを使っています。1回目はビームゲン、2回目はヘプタバックス、3回目はやっぱりビームゲンという変わった接種方法は通常は好ましくありません。好ましくない芦有は「薬の効果が思い通りに発揮されるか検討されていない」からです。

しかし今は緊急事態です。ビームゲンは品薄です。というわけで、2回はビームゲンを接種したが、3回目はビームゲンが手に入らないという状況が発生するかもしれません。この場合どうするか…。

実はほとんど検討されていません。というか見つかりません。

ただ、ワクチンを途中で変えても抗体は「多分」つくでしょう。B型肝炎ワクチンを3回接種した後にHBs抗体をきちんと測定するという条件付きであれば許容されるかもしれません。ただ、B型肝炎ワクチンは2回目接種後にすでに抗体が陽性になっていることもあるため、3回目のワクチンが本当に「効いた」のかどうかはわかりません。

無いものはしょうがない!と開き直るしかない様です・・。

 

③添加物

実は二つのワクチンには添加物に差があります。ビームゲンにはチメロサールという添加物が入っていますが、ヘプタバックスには入っていません。

チメロサール有機水銀であり、水俣病の原因となったメチル水銀と構造は似ていますので、入っていないに越したことは無いわけです。しかし有機水銀の接種上限については各種の機関からまちまちの基準が出されており、どの程度どの物質を接種すると神経発達に対して影響を与えるのかはよくわかっていません。おそらく成人に対してワクチン接種において使用される程度のチメロサールであれば影響はないと思われますが、正直よくわからないわけです。ともかく最も影響を受けやすい胎児を守るために妊婦さんにはチメロサールを避けたほうが良いとは考えられます。

 

④キャップのゴム

ワクチンを入れているバイアルのキャップのゴムはビームゲンは合成ゴム、ヘプタバックスは天然ゴムです。したがって、ラテックスアレルギーのある方にはヘプタバックスは回避したほうがよいと言えるでしょう。

f:id:shirokumaotoko:20160126180429j:plain

 

よくわからない・・ことが多すぎるようです。

ヘプタバックスはあまり大きなシェアを持っていませんので、品薄は必至です。今後どうなるのか戦々恐々です。