渡航医学 ジカ熱って何?
今年は2016年ですので、4の倍数の年。つまりオリンピックイヤーです。前回のオリンピックがソチオリンピックでしたから、もう4年も経ったわけです。
今年のオリンピックが開催されるのはリオデジャネイロです。ブラジルを取り巻く環境は厳しく、政治的に混乱が続いています。
近年はテロの危険性も高まっているため、オリンピック期間中は国を挙げて厳戒態勢を敷くはずなのですが、トップの大統領は弾劾されて職務停止・・。これは怖い話です。
そして、ブラジルで今もう一つ心配な話題がジカ熱の流行です。
NHKのドクターGでも取り上げられていましたが、ジカ熱は割と特徴的な疾患です。また予防方法もシンプルですので、どんな病気か~予防法までまとめてみることにします。
ジカ熱とはどんな病気か?
まず知っていただきたいのは、ジカ熱で罹った人が死ぬことはほぼ無いということです。デング熱やマラリアのように場合によっては死ぬ病気ではありません。
実は以前ミクロネシアでジカ熱が流行した時に、症状や広がり具合を調査した論文がありますので、それを見ながら解説していきましょう。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0805715
潜伏期間はだいたい2日~1週間程度と言われています。我々の業界では短めです。
症状は発熱、頭痛、関節痛、結膜充血、皮疹が多くみられると報告されていますが、上にあげた論文の中では発熱が見られたのは65%程度で、発熱といっても37.9 ℃を超える者は1人もいなかったと報告されています。ジカ「熱」というよりジカ「微熱」ですね。そして、皮疹の方が90%程度出現すると報告されていますので、デング熱の様な強烈な熱が出て「ひーひー」言うという感染症ではありません。
また、皮疹は熱が出ると同時ぐらいから出現する様で、解熱したころに皮疹が出るデング熱とは異なります。
上記の様な症状が3日~12日持続して治ります。
血液検査所見でも血小板減少や白血球減少は無いか軽度であまり派手ではありません。また炎症反応とよく称されるCRP上昇もまれとされています。
そんなに怖くない・・。というのが率直なところですね。
それから、ジカウイルスに感染しても8割ぐらいは症状が出ません(不顕性感染)。
感染経路
もともとはサルと蚊の間をぐるぐる回っていたウイルスでしたが、人間の森林への侵入により人に感染症例が発生し、その後は人から人へもぐるぐる回るようになりました。
ウイルスに感染した人間を刺したネッタイシマカorヒトスジシマカ(ヤブカでいわれる蚊です)は、1週間程度の間にウイルスを体内で増殖させ、他の人に感染させる能力を得ます。その蚊にさされると感染が成立します。
特に都市部に多い蚊で、デング熱や、チクングニアを運ぶのと同じ蚊です。
人から人への感染はこのほかにセックスによっても感染します。したがって、感染が疑わしいか確定している場合はセックスはやめた方が良いわけです。またジカ熱から回復して62日たっても精液にジカウイルスがいたという報告もあります。
合併症
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小頭症
ブラジルで今問題になっているのはジカウイルスの胎児への影響です。ジカウイルスのウイルスはお腹の赤ちゃんの神経細胞の発達を阻害すると言われており、脳の発達が阻害されます。その結果頭部が極端に小さい赤ちゃんが生まれてくるのです。これが「小頭症」です。当初は関連性があるかも・・といわれていましたが、アメリカのCDCは公式に関連性を認めました。
Possible Association Between Zika Virus Infection and Microcephaly — Brazil, 2015 | MMWR
ざっくりまとめましょう。
まず妊娠を3つの期間にわけ、最初の1/3の時期(第1期: first trimester)にジカウイルスに感染すると小頭症が多い(57%)が、第2期(second trimester)でも多少みられる(14%)。
別の研究では第3期(third trimester)でも多少の脳の異常が出現していることがあると報告されている。
若干男児に多い(60%)が、サンプルサイズが小さい研究なので分からない。
頭囲が通常より3SD以上小さい重症の小頭症が71%を占める。
眼底の異常を伴っていることもある(18%)。
筋緊張の異常(37%)や、何らかの神経学的異常(49%)を伴うことが多い。
脳の石灰化を伴っていることが多い(74%)。
妊婦にジカウイルスは大敵ということがお分かりと思います。したがって、下の方で述べる予防がとても大事なのですが、ジカウイルス感染症を疑う妊婦さん向けのフローチャートがCDCから出ています。
上のフローチャートを見ると、結局は「フォローアップ」したり、「羊水のジカウイルス検査をする」というところで終わってしまいます。つまり、母体がジカ熱に感染したあとから確実に小頭症を避ける方法はないということです。
妊娠中はジカ熱に罹らないのが大事ということになります。
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ギランバレー症候群
ジカ熱の後にギランバレー症候群という末梢神経疾患が生じることがあると報告されています。
ちなみに、ギランバレー症候群が良く分からない場合はWikipediaをどうぞ。とても充実しています。→ギラン・バレー症候群 - Wikipedia
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2816%2900562-6/abstract
長い表orz。全部日本語に直す気力は無いので、要点だけまとめてみます。
この研究に組み込まれた人たちのジカ熱そのものの臨床症状は上で述べたものと大きく変わりませんが、浮腫が31%出ている点が少し違うようですね。ミクロネシアでの流行のデータを集計している時は気づかなかっただけかもしれません。
ジカ熱の症状のピークからギランバレー症候群発症までの期間は6日間程度(中央値で)ですね。
ギランバレー症候群の症状としては筋力低下86%、深部腱反射の消失が鈍化48%、顔面神経麻痺79%、嚥下困難45%、呼吸困難33%となっていました。顔面神経麻痺以降の児症状についてはこれまで知られていた出現頻度より15%ぐらい高い様です。ただ、人種によって出やすい症状に差があるため、そのまま日本人には適応できないと思われます。
免疫グロブリン大量療法や血漿交換による抗体吸着療法などを要する症例もあり、29%が呼吸器による補助を要したと報告されています。亡くなった方は居ないようです。
ジカ熱にかかった人のうちどのくらいがギランバレー症候群になるのかはまだ不明ですが、妊娠中でない人も(男も含めて)ジカ熱にはかからない方がいいですね。
治療法
ジカ熱には特異的な治療法はありません。治るのを待っているだけです。高熱も出ませんし、入院を要するような状況になることはまれです。
また蚊(ヒトスジシマカかネッタイシマカ)がいないと人には感染しませんので、よっぽど蚊だらけの住居に住んでいない限り感染阻止目的の入院も要らないでしょう。
予防法
ワクチンはありませんので、蚊に刺されないようにすることが重要です。
まず長袖長ズボンを着用するのが良いです。しかしブラジルに観光に行った日本人が長袖長ズボンを常時着用するのは現実的ではありません。
そこで、DEETを含んだ昆虫忌避剤を使いましょう。虫よけです。
DEETは含有量が多いほど長く聞きます。日本で最もDEETをたくさん含んだ虫よけは虫ペールαで12%です。
www.ikedamohando.co.jpこの場合一回塗ると2-3時間持ちます。逆に言うとそれだけしか持ちません。海外の薬局ではもっと長持ちするDEET含有量の多い製品が販売されています。
現在ブラジルでは昆虫忌避薬がバカ売れしているようなので、手に入るかどうか不明・・(たぶん大丈夫ですが)。かといってトランジットのドバイなどで買うと、機内持ち込みできない・・
なので、日本で虫ペールαをいっぱい買って持っていくというのが良いのではないでしょうか。決して私は池田模範堂の回し者ではありませんが。
流行地域
ジカ熱といいう病気は1950年頃から知られていましたが、流行範囲は限られており、もともとアフリカの一部と東南アジアではやっている病期でした。だいたいそれが2005年頃までの話です。ちなみに↓の地図、緑の円はチクングニア、赤い円がジカです。
2005年から2015年頃までは大洋州で流行しており、ヤップ島では「蔓延」と表現されるほどでした。そのころから合併症の報告もありましたが、大きくは取り上げられていませんでした。
2013年頃からはクック諸島などでも流行があ拡大していきました。赤い丸がジカ熱です。
2015年に入るとブラジルでジカ熱の流行が広がり、中南米全体に広がっています。
南米でジカ熱の心配が無いのは地理とウルグアイだけですね。
ちなみに、標高が2000mを超える場所(ボリビアの大部分やマチュピチュ遺跡、ウユニ塩湖。エクアドルの首都であるキトなど)は基本的に蚊がいないためリスクは低いと思われます。
まとめ
虫よけを日本から買って行って2時間おきに付け直しをしましょう。
ブラジルで風俗(^^;に行くのはやめましょう。
妊婦さんは今ブラジルにいかない方がいいでしょう。